2010年5月31日月曜日

 我々(山中裕・溝渕彰)は既に、HOYA株式会社に対して、6月の定時株主総会に係る株主提案を行っている。この件については、既にBloomberg等のメディアで報道されているとおりである。
 投資家の皆様方に我々の提案を理解して頂くために以下のような文書を用意させて頂いたのでご参照頂くようお願いいたしたい。その内容は、(1)我々のコーポレートガバナンスの基本的な考え方、(2)その考えに基づいて今回の15個の提案を行ったこと、(3)特に、賛成票を入れて欲しくない3名の取締役候補予定者(会社側提案に係る候補者である)関するお願い、の3点を含むものである。
*なお、(3)の取締役候補予定者は招集通知の発せられていない現段階ではまだ候補者として議案に掲載されるか否か明確ではない。そのような事情に鑑み、あくまでも取締役候補となることが予測される者として、取締役候補予定者と呼んでいる。以下では、この3名はあくまでも取締役候補予定者であることに注意されたい。
 
投資家の皆様

                                           山中 裕
                                           溝渕 彰

《コーポレートガバナンスに関する我々の基本的な考え方》

1 取締役の選任・解任のプロセスを実質的に機能させるべきである。
 我々は、取締役の選任・解任のプロセスを実質的に機能させ、取締役の株主利益を図るインセンティブを高める必要があると考える。株主による取締役の選解任のプロセスが実質的に機能すると、取締役は株主利益を図るインセンティブが高まる。株主に目を向けない行動をとる取締役は、選任されないかあるいは解任されることになるからである。株主利益を図るインセンティブを有する取締役であれば、このようなインセンティブを有する執行役を選任するであろう。また、取締役は、このようなインセンティブを高めるように執行役に対する報酬を設計するだろう。株主利益を図るインセンティブが弱い執行役であれば、解任するであろう(具体的には、HOYA株式会社では執行役候補者は指名委員会が指名し、取締役会の決定されることになる。執行役の報酬は報酬委員会で決定されることになる)。以上のような点から、取締役の選解任のプロセスは重要であり、これを実質的に機能させる必要があると考える。

2 経営を監視する社外取締役の能力と時間のある独立取締役を選任すべきである。
 取締役会の監視能力を高めるために、代表執行役社長等の経営トップから取締役の独立性を高めることは重要である。独立性が高まることで経営トップからの影響力が弱められ、彼・彼女を無条件に支持する傾向は弱められるだろう。また、執行役を監視する能力も時間もない者も取締役として適任ではない。そもそも所有と経営の分離の下では、株主は経営を行う時間も能力もある取締役に経営を委ねたのである。現在、主たる取締役の役割は取締役会のメンバーとして執行役の行う経営を監督することに変化している。執行役を監視するために必要な(経営に関する)能力や時間がない者は取締役として適任ではないと考える。以上の点から、社外取締役は、経営陣から独立性を有し、経営を監視する能力と時間がある者が選任されるべきである。

以上、1及び2の観点から我々は今回の15個の株主提案を行った。

《3名の社外取締役候補の再任に反対することをお願いしたい。》

特に上記観点から3名の社外取締役候補(椎名武雄氏、児玉幸治氏、茂木友三郎氏の3名、以下3名の候補者と言う)が社外取締役として再任されることは、HOYA株式会社の企業統治、及びその究極的な目的である株主価値向上にはマイナスであると考えるため、平成22年6月18日に予定されているHOYA株式会社の第72期定時株主総会で賛成票を入れないようお願いしたい。なお小枝至氏、河野栄子氏に関しても問題がないとは判断していないが、過半数の社外取締役を交代させることで取締役会構成が本質的に変更されることを考慮し、以上の特に問題のある候補3人に反対票を集中させるため、あえて再任推奨とすることとした。
 確かに形式上では、HOYA株式会社は委員会設置会社を選択し、過半数の社外取締役の選任を定款で義務づけるなど、企業統治の改善の努力をしているかのように見える。しかしながら、まさに社外取締役制度を導入していることがさかんに宣伝されるようになった直近の10年間で株価は凡庸なパフォーマンスしか残しておらず、また直近の5年間では日経平均をアンダー・パフォームする結果となっている。当社の企業価値が大きく向上して優良企業といわれるようになったのは、70年代から80年代にかけて獲得した、ガラス研磨技術を中心とした基幹技術をもとに、フォトマスク、マスクブランクス、ガラス磁気ディスク基板、眼内レンズなどの開発に成功することができたからであり、過去10年から15年の間には、新規事業の経済合理的な形での開発に成功していない(高値掴みの買収で事業数が増えたのは除く)。新規事業の度重なる失敗と現在の事業開発の問題点は別に詳細を述べているが、執行役が「優良案件を掴むための人脈や情報源を保有しておらずそのための努力も全く行っていないこと、投資を行った後は放置したままであり少なくとも四半期おきに投資先の技術開発の動向や代替技術の動向がどうなっているか、買収提案をするべきかどうかなどの精査な分析を一切行っていないこと」などの新規事業の創出による株主価値の増加の障壁となる問題に、社外取締役がなんら関心ないため、経営状況の変更がまったくされない。これを改善する方法は、当社の取締役の過半数を交代させること以外にあり得ない。特に3名の候補者は、①経営者を監督するのに十分な能力や時間がなく、②株主価値を高めるインセンティブに欠け、③経営者の業務執行に賛成する心理的な傾向があると思われるので取締役候補として不適格と考える。以下理由を述べる。

① 経営者を監督するのに十分な能力や時間がない 
 椎名武雄氏と茂木友三郎氏、児玉幸治氏は、過去または現在において、多くの公益法人、民間企業、政府委員会などで、社外取締役、社外監査役、委員などの兼任を行っている。例えば、椎名武雄氏は、90年代に米工業ガスのエアープロダクト、米電子メーカーのAMPの社外取締役に就任後、商船三井、明治製菓、東京スター銀行などの社外取締役に次々と就任し、2001年の時点で8社もの兼任を行っていた。また茂木友三郎氏は、現在キッコーマンのCEOを兼務しながら、明治安田生命保険と当社の社外取締役、フジ・メディア・ホールディングと東武鉄道の社外監査役、さらに行政刷新会議の議員を兼任し、本年3月の時点で文部科学省と外務省が所管するユネスコ・アジア文化センターや農林水産省所管の食品産業センターなど国から補助金が支出されている法人のポストを含む18にも及ぶ公益法人の理事長などのポストを兼任していることが報道されている。このような兼任数が多い状況では、HOYA株式会社の社外取締役として経営陣を監督するために必要な情報を入手し、分析するのに十分な時間があるとは言えないと考えられる。

② 株主価値を高めるインセンティブに欠けている。
児玉幸治氏は、いわゆる天下り・渡り官僚であり、経営の経験もなく企業統治の専門家でもないため、そもそも会社経営を行う能力や経営を監督する能力が本質的に欠けていると考えられる。もし児玉氏がHOYA株式会社の社外取締役としての適格性があるのであれば、「具体的に」どのような役割が期待されているのかを明らかにすべきである。提案者はペンタックスの買収が問題となっていた2007年5月ころに当時のすべての社外取締役に「この買収価格は妥当ではなく、今すぐ買収を中止するべきである」との内容の書簡を送ったが、それらはすべて無視された結果として現在のような状況になっている。また同年6月に児玉幸治氏と面会したところ、「ペンタックスの従業員の過半数がHOYAとの統合に賛成」ということを、取締役として買収に賛成した根拠として述べた。また児玉氏は、財団法人旭硝子財団理事や旭化成の社外取締役を兼任しているが、当社と旭硝子あるいは当社と旭化成の間には事業上の重大な競合関係(フラットパネルのガラス基盤、あるいは眼科製品において)が存在するため、利益相反の関係が自然と疑われると言わざるをえないが、当人はこれら問題に自覚がないようである。
別法人の理事長を兼任していると、株主ではなく別法人の利益を図る可能性がある。茂木氏の公益法人との兼任の問題はすでに時間の問題で指摘したが、旧通商産業省事務次官の児玉幸治氏は「機械システム振興財団」という公益法人の会長を務めているが、いわいる天下り官僚の上がりポストである。日本社会では、公益法人に、官僚組織がその裁量権による圧力をかけ、民間企業から会費を集めることがあり、児玉氏は経済産業省出身者として、このような会費の徴収に熱心となる可能性がある。HOYAの取締役会は経済産業省からの圧力を受け、取引を承認するかもしれない。また取引のボリュームが小さければ、児玉幸治氏の意向を受けてCEOの判断で会費の支出が行われることもあるだろうが、これら支出の開示はなされていないため、株主には知るところではない。このような場合、児玉氏はHOYAの株主の利益よりも取引先である公益法人の利益を図っていると疑わせるに十分であるし、このような可能性が推測されることだけでも、企業統治上の欠陥があると言わざるを得ない。
 また社外取締役が株主価値を高めるインセンティブを強化するため自社株を保有すべきことは極めて重要であるが、現在の社外取締役は、基本的に自社株を時価ベースで1000万円以下しか保有しておらず、株主価値を高める強い経済的なインセンティブを持っていない(社外取締役の報酬は推定年間1100万円程度)。例えば、取締役の椎名武雄氏は過去15年で推定でも最低1億5000万円の報酬を受け取っているが、1000万円以下の時価総額の同社株しか保有していない。児玉氏の所有する株式数は、前年株主総会の参考資料によると1000株(時価200万円と報酬の五分の一程度)にすぎない。椎名武雄氏、児玉幸治氏、茂木友三郎氏らにとって、株価が上昇することの経済的メリットよりも、現経営陣やほかの取締役とうまくやって、再任を狙うことの方が当人たちの経済的利益に合致していると判断できる。

③ 取締役間の見解の対立を回避し、いわいる「仲良しクラブ」的取締役会を形成し、経営者を無条件に支持する心理的な傾向が高い。
 HOYA株式会社の指名委員会は執行役及び取締役候補者を選定する権限を持つが、一般には指名委員会はCEOの意向に配慮して候補者を選定することが一般的である。例えば塙義一氏の後任に同じ日産自動車の小枝至氏が社外取締役に選任されているが、これはCEOが塙氏に依頼したか、依頼することをCEOが了承することを前提に指名委員会が決定したものと思われる。前任の取締役が出身会社の上司筋であることは、以前の判断に異議を唱えることが難しくなる。そのような候補者だからこそ指名委員会は敢えて選任したと推測できる。外国人や女性、あるいは引退した経営者以外の職業的背景を持った社外取締役候補を(場合によってはサーチ会社等を用いて)探すことを行っていないとみられる。外国人や引退した経営者以外の職業的な背景を持つ社外取締役候補の指名を事実上行っていない事実は、椎名武雄氏や茂木友三郎氏らの現任取締役が取締役会に多様な意見が反映されることに対して、心理的に抵抗していることを示唆する。このような判断は、椎名武雄氏ら当時の指名委員会の構成メンバーに責任があると言える。また現在の社外取締役は、過半数3名が本総会時点で満75歳を越え、他の2人も年齢が60代であるなど老齢化しているため、一部の世代の共通感覚が取締役会を支配することとなる。
 また指名委員会は現任執行役である萩原太郎氏を再度技術担当の執行役候補者にすることを予定している。そもそも荻原太郎氏が前年に日産自動車から当社へ転籍したこと自体も、塙氏による強い推薦があったと思われる。萩原太郎氏は日産自動車で傍流になった燃料電池部門の開発責任者であり、開発に特に成功した実績も確認できる客観的な根拠がない。また当社はガラスを中心とする材料科学メーカーであるため、機械系の教育を受けた荻原氏は適性が疑わしい。日産自動車と当社執行役の人間関係により、社外取締役の出身会社で不必要になった人材を、社外取締役に就任している会社に押し付けるような行為だと疑う余地すらある。
 さらに椎名武雄氏は、株主向けの開示資料によれば、2003年まで社外取締役の報酬とは別に、自身が所有し代表取締役を務めるコンサルティング会社が毎年数100万円のコンサルティング料を受領していた。この事実は社外取締役としての独立性を欠くことを意味する。また椎名氏はHOYA株式会社の社外取締役を15年、茂木氏は9年間の再任期間を経て務めているが、ロンドン証券取引所の証券規則では9年を越える再任期間を持つ取締役は、独立とはみなされない。このように在任期間が長いと一般的に経営陣や他の取締役と個人的な関係を形成することが多い。椎名氏や茂木氏は、最終的には経営陣を支持する心理的な傾向が強くある。実際に通常誰の目から見ても非合理な買収であるペンタックス社の公開買い付けや、新規事業に取り組むにあたる問題について、これらの取締役が意見を述べ、本質的な改善を執行役に要求した事実は、間接的にも全く確認できない。提案者から見れば、株主価値創出の課題は新規事業の失敗という意味で明確であるが、椎名氏らの取締役にとっては、それら課題は問題意識に入っていないと思われる。

 以上の点を考慮し、企業価値の向上への障害となる椎名武雄氏、児玉幸治氏、茂木友三郎氏、3名の取締役候補について賛成票を入れないことを呼びかけることとしたい。

2010年4月3日土曜日

取締役の独立性の要件―Riskmetricsの見解―

 最近、取締役の独立性の要件が問題となっている。この点、議決権行使助言会社として著名なRiskmetricsGroupはどのような見解を持っているのかについてみてみよう。
 Riskmetricsは、proxy voting policy guidelinesの中で、以下のような取締役候補者について株主総会で、反対票を投ずるよう推奨している。
→http://www.riskmetrics.com/sites/default/files/RMG2010InternationalPolicyUpdates.pdf参照。

①監査役会設置会社と委員会設置会社に共通するもの
 (1)取締役会の出席率が75%を下回る候補者
(2)経営に失敗したと判断されたり、株主の承認なしにポイズンピルを導入した等の責任がある経営トップ
②委員会設置会社には、特に
 (1)当該会社の重要な株主〔である会社等〕で働いたり、過去に働いていた者
 (2)当該会社の主要な債権者である会社で働いたり、過去に働いていた者
 (3)当該会社の重要な株主である会社で働いたり、過去に働いていた者
 (4)以前に当該会社の監査法人のパートナーであった者
 (5)法律、金融、税に関する助言あるいはコンサルティング・サービスのような専門的なサービスを提供したり、過去に提供していた者
 (6)親類が当該会社で雇用されていた者

2010年3月23日火曜日

2010年3月15日月曜日

金融庁のパブリックコメント

金融庁が付していたパブリックコメントに以下の意見を送りました。一昨年から、ハーバード大学法科大学院(ロー・スクール)に留学していた当初、日本での政権交代によって、ここまで投資家寄りの政策に急速に舵を切るようになるとは、予想だにしていませんでした。取締役選出における累積投票、株主総会での秘密投票などの提案については、別に項を設けて情報を発信していこうと思います。ちなみに衆議院第二議員会館での様子は、こちら

「企業内容等の開示に関する内閣府令(案)」等の公表についての意見
下関市立大学 准教授 溝渕 彰

1 役員報酬の開示について 
 経営者と株主との間に存在するエージェンシー・コストを削減するために、報酬を活用すべきことは学者・報酬実務家を問わず広く支持されていることである。特に、経営者の業績と報酬を連動させることで株主価値を高めるインセンティブを与えることは株主にとって有益であると考えられている。
 従って、株主(あるいはこれから株主となる可能性がある投資家。以下、株主等という)が個々の経営者の業績と報酬をチェックすることができるよう経営者の報酬を個別に開示することは株主保護の観点から望ましい。この点、有価証券報告書等で役員報酬を個別に開示することを義務付けた金融庁の内閣府令改正案は全面的に支持できるものであり、日本のコーポレート・ガバナンス史上、極めて画期的なことである。
しかし、(敢えて申し上げるが)問題も存在する。報酬等の額が1億円以下の役員は個別開示の対象から外すことも可能としていることである。個々の役員報酬を開示させる意味は、株主等が個々の役員の報酬と業績とが連動しているかどうかをチェックするためである。報酬額が高いから開示を要するわけではない。従って、報酬額の多寡にかかわらず、個々の役員ごとに報酬等の種類別に金額等を開示させるべきである。ただ、全ての役員の報酬を開示することは事務処理上困難であることも考慮して、経営トップ、すなわち、代表取締役社長又は代表執行役社長とそれ以外で報酬が上位に位置する四名の役員の報酬を開示させるべきと考える。

2 議決権行使結果の開示について
 臨時報告書において、株主総会における議案ごとの議決権行使の結果(得票数等)を開示させることとする金融庁の内閣府令改正案について全面的に支持する。これも日本のコーポレート・ガバナンス史上、極めて画期的なことである。これに加えて、将来的には、第三者による集計と秘密投票の実施を法律上、会社に義務付けることも必要であると考える。

2010年1月30日土曜日

累積投票のススメ

 会社法に累積投票制度(会社342条)というのがある。この制度は、次のようなものである。二人以上の取締役の選任を行う場合に、株主は選任する取締役の数だけ議決権を有する。議決権はまとめて一人の候補者に投票することもできるし、分散させて投票することもできる。これは一種の比例代表制とも言え、少数株主からも取締役を選出できる制度である。しかしながら、この制度は現行会社法の下では定款で全面的に排除することが可能である。取締役会内部に混乱を招くことを防ぐのが目的というのだが、むしろ、取締役会が仲良しクラブになっている現在の状況の方が問題であろう。取締役会の多様性を確保し、監視のパフォーマンスを高めるためにも累積投票を積極的に活用すべきと思う。これによって、例えば、従業員持株会から従業員代表を取締役会に送り込むこともでき、ステークホルダー=従業員の利益を考慮することができるであろう。具体的には、累積投票制度を法によって強制するよう会社法を改正すべきことを提唱したい。